「メラトニンが睡眠に良い」という話は聞いたことがあっても、睡眠に関わるホルモンがメラトニンだけではないことは意外と知られていません。実は、私たちの眠りには複数のホルモンが複雑に絡み合って関与しています。
ホルモンは血液を通じて全身に信号を届ける「体内のメッセンジャー」です。睡眠を促すもの、覚醒を維持するもの、眠っている間に体を修復するものなど、それぞれが異なる役割を担いながら連携しています。
この記事では、睡眠に関わるホルモンを網羅的にまとめて解説します。それぞれの特徴や働きを知ることで、自分の睡眠を改善するヒントが見つかるはずです。
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メラトニン|眠りのスイッチを入れるホルモン
メラトニンは「睡眠ホルモン」として最も有名なホルモンです。脳の松果体(しょうかたい)という器官から分泌され、体に「そろそろ眠る時間だよ」と知らせる役割を果たしています。
メラトニンの分泌リズム
メラトニンの分泌は光と密接に関係しています。日中は光の影響で分泌がほぼ停止しており、夕方から夜にかけて徐々に分泌量が増加します。通常、就寝2〜3時間前から分泌が始まり、深夜2〜4時頃にピークを迎えます。
朝になって再び光を浴びると分泌が止まり、覚醒へと向かいます。このサイクルが毎日繰り返されることで、規則正しい睡眠リズムが保たれています。
メラトニンの具体的な作用
メラトニンには以下のような働きがあります。
- 深部体温を低下させて入眠しやすい状態をつくる
- 交感神経の活動を抑えてリラックスを促す
- 抗酸化作用により細胞の酸化ストレスを軽減する
- 免疫機能を調整する働きもある
メラトニンは単に眠気を促すだけでなく、抗酸化物質としても強力な力を持っており、体の老化防止にも寄与していると考えられています。
メラトニンを妨げるもの
夜間のスマートフォンやパソコンから発せられるブルーライトは、メラトニンの分泌を抑制することが知られています。とくに波長460〜480nmの青色光はメラトニン抑制効果が強いとされており、就寝前の画面使用はできるだけ控えたいところです。
また、加齢に伴いメラトニンの分泌量は減少します。高齢者の睡眠が浅くなりやすい原因の1つとして、メラトニン分泌の低下が挙げられます。

セロトニン|日中の活動とメラトニンの材料
セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、気分の安定や精神的な落ち着きに関わる神経伝達物質です。しかし睡眠においても非常に重要な役割を持っています。
セロトニンは日中に太陽光を浴びたり、リズミカルな運動をしたりすることで分泌が促進されます。そして夜になると、セロトニンがメラトニンの原料として使われます。つまり、日中にセロトニンが十分に分泌されていないと、夜のメラトニン生成にも支障が出るのです。
セロトニンを増やすためにできること
セロトニンの分泌を促すには、以下のような習慣が有効です。
- 朝に15〜30分程度の日光浴をする
- ウォーキングやジョギングなどのリズム運動を行う
- トリプトファンを含む食品(バナナ、大豆製品、乳製品など)を摂取する
- 意識的にガムを噛むなどの咀嚼運動を行う
厚生労働省のe-ヘルスネット(www.e-healthnet.mhlw.go.jp・サイト終了)でも、セロトニンの基本的な働きや生活習慣との関わりについて解説されています。
成長ホルモン|眠りの中で体を修復するホルモン
成長ホルモンと聞くと「成長期の子どもに必要なもの」というイメージがあるかもしれませんが、大人にとっても重要なホルモンです。細胞の修復、筋肉の維持、代謝の調整など、体のメンテナンスに欠かせない働きを持っています。
成長ホルモンは深い眠りで分泌される
成長ホルモンは、睡眠中のノンレム睡眠ステージ3(徐波睡眠)で最も多く分泌されます。とくに入眠後最初の深い睡眠で大量に分泌されることがわかっています。
そのため、寝つきが悪かったり、睡眠の前半で何度も目が覚めてしまったりすると、成長ホルモンの分泌量が減少する可能性があります。
成長ホルモンの具体的な働き
- 傷ついた細胞や組織を修復する
- 筋肉量を維持・増加させる
- 脂肪の分解を促進する
- 骨密度を保つ
- 肌のターンオーバーを促す
「寝る子は育つ」という昔からの言い伝えには、成長ホルモンの分泌という科学的な裏付けがあったわけです。

コルチゾール|朝の目覚めを助けるホルモン
コルチゾールは「ストレスホルモン」として知られていますが、睡眠と覚醒のリズムにおいても重要な役割を果たしています。
コルチゾールの分泌は深夜から明け方にかけて徐々に増加し、起床の直前にピークを迎えます。これは「コルチゾール覚醒反応(CAR: Cortisol Awakening Response)」と呼ばれ、体を覚醒状態に導く自然なメカニズムです。
コルチゾールと睡眠障害の関係
慢性的なストレスを抱えていると、夜間にもコルチゾールの分泌が高いままになることがあります。すると、体が覚醒モードから抜け出せず、寝つきが悪くなったり途中覚醒が増えたりします。
ストレスで眠れないという状態は、まさにコルチゾールの過剰分泌が原因の1つです。リラクゼーション法や適度な運動でストレスを管理することが、コルチゾールの正常なリズムを維持するために重要です。
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オレキシン|覚醒を維持するための鍵
オレキシン(ヒポクレチン)は1998年に発見された比較的新しい神経ペプチドで、覚醒の維持に中心的な役割を果たしています。
オレキシンは視床下部の外側にあるオレキシンニューロンから産生され、脳全体の覚醒系神経に対して「起きていろ」という信号を送り続けます。日中の安定した覚醒状態はオレキシンの働きによるところが大きいのです。
オレキシンと睡眠薬の関係
近年の睡眠薬の中には、オレキシンの受容体をブロックすることで自然な眠りを促すタイプのものがあります。「オレキシン受容体拮抗薬」と呼ばれるこの薬は、従来のGABA系睡眠薬とは異なるアプローチで眠りを導くため、依存性が低いとされています。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)のサイトで、睡眠薬に関する最新の情報を確認することができます。
オレキシンとナルコレプシー
オレキシンの機能が低下すると、日中に突然眠り込んでしまうナルコレプシーという疾患を引き起こすことがあります。ナルコレプシーの患者ではオレキシンを産生するニューロンが大幅に減少していることが確認されています。

その他の睡眠関連ホルモン・物質
GABA(ガンマアミノ酪酸)
GABAは脳の興奮を抑制する神経伝達物質です。GABAが働くことで脳のニューロンの活動が静まり、入眠しやすい状態になります。多くの従来型睡眠薬はGABAの働きを増強する仕組みで設計されています。食品からも摂取でき、発芽玄米やトマトなどに多く含まれています。
アデノシン
アデノシンは厳密にはホルモンではなく神経調節物質ですが、睡眠圧(ホメオスタシス)の主役として睡眠に深く関わっています。覚醒中に脳が活動するとアデノシンが蓄積し、一定量を超えると強い眠気を引き起こします。カフェインはこのアデノシンの受容体をブロックすることで覚醒効果を発揮します。
プロラクチン
プロラクチンは睡眠中に分泌が増加するホルモンで、免疫機能の調整に関わっていると考えられています。とくに深いノンレム睡眠中に分泌が活発になります。
レプチンとグレリン
睡眠不足になるとグレリン(食欲増進ホルモン)が増加し、レプチン(食欲抑制ホルモン)が減少することが報告されています。これが「寝不足だと太りやすい」と言われる原因の1つです。
甲状腺ホルモン
甲状腺ホルモンは代謝の調整に関わるホルモンですが、過剰に分泌されると不眠の原因になることがあります。バセドウ病などの甲状腺機能亢進症では、不眠が主要な症状の1つとして現れることがあります。
ホルモンバランスを整えるためにできること
睡眠に関わるホルモンのバランスを整えるには、特別なサプリメントよりも日常生活の習慣改善が最も効果的です。
- 朝の光を浴びてセロトニンの分泌を促す
- 夜は照明を暗めにしてメラトニンの分泌を助ける
- 規則正しい起床・就寝時刻を維持する
- 適度な運動でストレスを軽減し、コルチゾールを正常に保つ
- トリプトファンやGABAを含む食品をバランスよく摂取する
また、国立精神・神経医療研究センターでは、睡眠障害に関する最新の研究情報や相談窓口が公開されています。ホルモンの異常が疑われる場合は、専門医への相談を検討してみてください。
メラトニンサプリメントは日本では医薬品扱いのため、市販されていません。海外から個人輸入する方もいますが、品質や安全性にバラつきがあるため、使用する場合は必ず医師に相談してください。

よくある質問(Q&A)
Q. メラトニンとセロトニンの関係は?
A. セロトニンはメラトニンの前駆物質(原料)です。日中に太陽光を浴びてセロトニンが十分に分泌されると、夜にそのセロトニンからメラトニンが生成されます。そのため、日中の日光浴が夜の快眠につながります。
Q. 成長ホルモンは何時に寝ると最も多く分泌されますか?
A. 成長ホルモンの分泌は時刻よりも「入眠後の最初の深い睡眠」に最も多く起こります。何時に寝ても、最初のノンレム睡眠ステージ3で大量に分泌されるため、重要なのは寝る時刻よりも深い眠りを確保することです。
Q. ストレスが多いと眠れなくなるのはなぜですか?
A. 慢性的なストレスによりコルチゾールの分泌が夜間も高い状態が続くと、体が覚醒モードから抜け出せなくなります。リラクゼーション法や適度な運動でストレスを管理することが、快眠への近道です。
Q. 食事で睡眠ホルモンを増やすことはできますか?
A. トリプトファンを含む食品(バナナ、大豆製品、乳製品、ナッツ類など)を日中に摂取することで、セロトニン→メラトニンの生成をサポートできます。ただし、即効性はなく、継続的な食生活の改善が大切です。
Q. メラトニンのサプリメントは安全ですか?
A. 日本ではメラトニンは医薬品扱いであり、市販されていません。海外製品を個人輸入する方もいますが、品質のバラつきや過剰摂取のリスクがあるため、使用前に必ず医師に相談してください。
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