「最近、いびきがうるさいって家族に言われる」「しっかり寝ているのに朝から体がだるい」。こうした症状に心当たりがある方は、もしかすると睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)の可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりする病気です。日本国内の潜在患者数は推定300〜500万人と言われていますが、実際に診断を受けて治療している人はそのうちのわずか一部にとどまっています。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群の症状を自分でチェックする方法、放置した場合のリスク、そして病院での検査・治療の流れまで詳しく解説していきます。「もしかして自分も?」と少しでも感じた方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは
どんな病気なのか
睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に10秒以上呼吸が止まる「無呼吸」や、呼吸が弱くなる「低呼吸」が繰り返される疾患です。1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数(AHI:Apnea Hypopnea Index)が5回以上で、日中の眠気などの症状がある場合に診断されます。
2つのタイプ
睡眠時無呼吸症候群には主に2つのタイプがあります。
- 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA):全体の約90%を占めるもっとも一般的なタイプ。睡眠中に喉の筋肉が緩んで気道が狭くなり、呼吸が止まります
- 中枢性睡眠時無呼吸(CSA):脳からの呼吸の指令がうまく送られなくなるタイプ。心不全などの疾患に伴って起きることがあります
一般的に「睡眠時無呼吸症候群」と言えば、閉塞性のタイプを指すことがほとんどです。

症状チェックリスト
以下のチェックリストで、当てはまる項目がないか確認してください。
夜間の症状
- 大きないびきをかく(家族やパートナーに指摘された)
- いびきが途中で止まり、その後「ガハッ」と再開する
- 睡眠中に息苦しくて目が覚める
- 夜中に何度もトイレに起きる(夜間頻尿)
- 寝汗がひどい
- 口が渇いて目が覚める
日中の症状
- 朝起きたとき頭痛がする
- 日中に強い眠気を感じる(会議中や運転中に居眠りしそうになる)
- 集中力・記憶力が低下した
- 疲れが取れない・常にだるい
- イライラしやすくなった
- 性欲が低下した
夜間の症状が2つ以上、または日中の症状が3つ以上当てはまる場合は、睡眠時無呼吸症候群の疑いがあります。早めに医療機関を受診することをおすすめします。とくに「いびきが止まって再開する」パターンは、無呼吸が起きている可能性が高い典型的な症状です。
エプワース眠気尺度(ESS)
日中の眠気を客観的に評価する方法として、「エプワース眠気尺度」があります。以下の8つの場面について、うとうとする可能性を0〜3点で自己評価します。
- 座って読書しているとき
- テレビを見ているとき
- 人の多い場所で座っているとき(会議や映画館など)
- 1時間続けて車に乗せてもらっているとき
- 午後に横になっているとき
- 座って人と話しているとき
- 昼食後に静かに座っているとき
- 車で信号待ちをしているとき
各項目を「うとうとすることはない(0点)」「時々うとうとする(1点)」「うとうとすることが多い(2点)」「ほぼ確実にうとうとする(3点)」で評価し、合計点が11点以上なら過度の眠気と判定されます。
いびきだけじゃない!見落としやすい危険サイン
「いびきをかいていないから大丈夫」と思っている方も油断はできません。以下のような症状は、SASとの関連が指摘されているにもかかわらず見落とされがちです。
夜間頻尿
無呼吸によって胸腔内の圧力が変化し、心臓から利尿ホルモン(ANP)が過剰に分泌されることで、夜中に何度もトイレに起きるようになります。前立腺の問題だと思っていたら実はSASが原因だったというケースは少なくありません。
朝の頭痛
無呼吸によって血中の酸素濃度が低下し、二酸化炭素濃度が上昇することで、朝起きたときに頭痛が起きることがあります。この頭痛は起床後30分〜1時間で自然に治まるのが特徴です。
歯ぎしり
睡眠時無呼吸症候群の患者は歯ぎしりの頻度が高いことが報告されています。無呼吸で酸素が不足したときに、気道を確保しようとして無意識に顎を動かすためではないかと考えられています。
性機能の低下
SASは男性の勃起障害(ED)や、男女問わず性欲の低下と関連していることが分かっています。睡眠の質が低下することでホルモンバランスが乱れることが原因の一つとされています。

SASのリスクファクター
以下に当てはまる方は、睡眠時無呼吸症候群のリスクが高いとされています。
- BMI 25以上の肥満(首回りの脂肪が気道を圧迫する)
- 首が太い・短い
- 顎が小さい(小顎症)
- 扁桃腺が大きい
- 鼻中隔湾曲症など鼻の疾患がある
- 飲酒の習慣がある(アルコールは喉の筋肉を緩める)
- 喫煙習慣がある(気道の炎症を引き起こす)
- 加齢(40歳以上でリスク増加)
- 男性(女性の2〜3倍のリスク)
- 閉経後の女性(ホルモンの変化でリスク上昇)
SASは太っている人だけの病気ではありません。日本人は欧米人に比べて顎が小さい傾向にあり、痩せ型でもSASを発症するケースが多いのが特徴です。体型だけで判断せず、症状に注目してください。
放置するとどうなる?SASの合併症
睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放置すると、さまざまな重大な合併症のリスクが高まります。
高血圧
無呼吸のたびに血中の酸素濃度が低下し、交感神経が活性化されます。その結果、夜間も血圧が下がらない「ノンディッパー型高血圧」になりやすくなります。SAS患者の約50%が高血圧を合併していると報告されています。
心臓病・脳卒中
SASは心筋梗塞や脳卒中のリスクを2〜4倍に高めることが分かっています。夜間の酸素不足が血管にダメージを与え、動脈硬化を進行させるためです。
糖尿病
SASはインスリン抵抗性を高め、2型糖尿病のリスクを増加させます。
交通事故
日中の強い眠気によって、居眠り運転のリスクが著しく高まります。SAS患者の交通事故率は、健常者の約2〜7倍と報告されています。

病院での検査方法
簡易検査(自宅で実施)
まず行われるのが、自宅で行える簡易検査です。鼻と指にセンサーを装着して就寝し、睡眠中の呼吸状態と血中酸素濃度を測定します。検査機器は病院から貸し出されるため、普段の環境で自然な睡眠データを取れるのがメリットです。
精密検査(PSG検査:ポリソムノグラフィー)
簡易検査でSASの疑いが強い場合は、病院に1泊して行うPSG検査に進みます。脳波、心電図、呼吸、血中酸素濃度、体位、筋電図など、多数のセンサーを装着して詳細な睡眠データを収集します。これがSASの確定診断のゴールドスタンダード(最も信頼性の高い検査)です。
受診する診療科
睡眠時無呼吸症候群の検査・治療は、以下の診療科で受けられます。
- 睡眠外来・睡眠科
- 呼吸器内科
- 耳鼻咽喉科
- 循環器内科
近くに「睡眠外来」がない場合は、呼吸器内科や耳鼻咽喉科に相談してみてください。
主な治療法
CPAP療法
中等度〜重度のSASに対する第一選択の治療法です。就寝時に鼻マスクを装着し、持続的に空気を送り込んで気道を開存させる装置です。保険適用で月5,000円程度(3割負担の場合)で使用できます。
マウスピース療法
軽度〜中等度のSASに適用される治療法です。下顎を前方に出す形のマウスピースを歯科で作成し、就寝時に装着します。気道を広げる効果があります。
生活習慣の改善
軽度のSASや、治療と並行して行う対策として以下が推奨されています。
- 減量(BMIの改善)
- 飲酒の制限(とくに就寝前の飲酒を避ける)
- 横向き寝にする(仰向け寝では気道がふさがりやすい)
- 禁煙
参考:日本呼吸器学会
参考:厚生労働省
よくある質問(Q&A)
Q. いびきをかかなくてもSASの可能性はありますか?
A. はい、あります。とくに中枢性睡眠時無呼吸はいびきを伴わないことが多いです。また、閉塞性でも軽度の場合はいびきが目立たないケースがあります。日中の強い眠気や朝の頭痛など、他の症状がある場合は受診を検討してください。
Q. 女性でもSASになりますか?
A. なります。男性に多い疾患ですが、閉経後の女性はホルモンバランスの変化によりリスクが上がります。また、女性の場合は典型的な「大きないびき」ではなく、疲労感や不眠、朝の頭痛といった症状が主訴になることが多く、見逃されやすい傾向があります。
Q. SASの検査費用はどれくらいですか?
A. 簡易検査は保険適用で3,000〜5,000円程度(3割負担の場合)、PSG検査(入院検査)は15,000〜30,000円程度です。検査費用は医療機関によって異なるため、事前に確認してください。
Q. CPAP治療は一生続ける必要がありますか?
A. 現時点では、CPAPは対症療法であり、SASを根本的に治す治療ではありません。ただし、減量によってSASが改善し、CPAPが不要になるケースもあります。主治医と相談しながら、生活習慣の改善を並行して進めることが大切です。
Q. 自分のいびきを確認する方法はありますか?
A. スマートフォンの睡眠記録アプリを使うと、いびきの有無や無呼吸の兆候を簡易的にチェックできます。「いびきラボ」などのアプリが有名です。ただし、これらはあくまでスクリーニング用で、正式な診断には医療機関での検査が必要です。


